中原中也「汚れつちまった悲しみに」
- 作者: 中原中也
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1991/01/20
- メディア: 文庫
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中原中也はなつかしい。会ったことはないけどなつかしい。
中原中也の見ていた景色を私は思い出すことができる。
中也の育った場所を、私はよく知っている。
5年前、もう5年前になるのか、中原中也記念館に行ったことがある。そこは静かで洗練された空間であった。
そこで、もう既に知り尽くした中也の濃い一生を振り返った。
中也は見目麗しい少年であり神童であった。
私は中也と同じ時代に生きていたら近づくこともできなかっただろうと思う。
私は中也がもうとうにいないこの世に生きているおかげで中也に近付くことができる。
両親の名前から兄弟から結婚相手から子供の名前からなにやらなにまで知ることができる。どんな習字を書いていたのかも。
作品も好きなだけ読める。
中也には国語の時間に出会った。ベタベタな出会いだ。
中原中也は、まず男前であったこと、同郷であったことや夭逝したことや不穏でありながら心地よいリズムを保ってなんかいも唱えたくなるような詩をつくるところ、全てが完璧だった。
そして詩集を買った。
詩集なんてものを買う日が来るとは。…詩集だぞ。
私は詩集を買う女…
と黄昏ながら中原中也を胸に抱いて今日も唱えるのは、思えば遠くへ来たもんだあのころの俺はいまいずこ。