西村賢太 苦役列車
文庫とハードカバーを並べてみたけどハードカバーの方が
「苦役列車感」があるな。
「オシャレ」に嫌気がさし、
オシャレとは程遠いものに触れたくてチョイス。大成功。
やっぱりしんどい、しんどすぎる。
やめてやめて!!と思うのは、
私は主人公の貫多と違って
中卒でもないし父親が性犯罪者でもないし
日雇労働で生計を立てているわけでもないし
4畳半の安アパートの家賃を滞納するほど生活が困窮しているわけでもないけど
貫多とおなじような考えをしてしまっているからだ。
プライドばっかり高くて他人を見下しこき下ろし、
じゃあ己はなんぼのもんなんじゃい、
と言われればなんぼのものでもないのだった。
健全な精神を妬み嫉み、
独りになるものの、しかし孤独はやはり嫌だ。
欲望を前にすると、決意は脆くも崩れ去る。
貫多のだらしなさ、駄目さに、私は自信に心当たりがありまくりで
「やめて!」と思ってしまう。
貫多には、健全な精神を持った同年代の友人ができるけど、
貫多のだらしなさや、無礼なふるまいに辟易されて
やがて離れて行ってしまう。
その友人の彼女を
「年柄年中腹をこわして糞ばかりし、臍に悪臭放つ汚いゴマをびっしりと溜め込んだ性病持ちの貧乏女」と勝手に決めつけ
(すげーなこれ、この悪意のトッピング全部乗せ、みたいな表現…)
実際に会ってみたら「どうおまけしてやっても15点」の女だったのだけど
友人はその女と結婚してしまい、
郵便局に勤めるという何とも、きっぱりとした、真面目な人生を歩んでいるのだった。
貫多は「偉そうな講釈をたれていた割に所詮郵便屋どまりか」
みたいなことを思って毒づくんだけど
じゃあ自分はどうなの?っていうと、
「最早誰も相手せず、また誰からも相手にされず、その頃知った私小説作家、藤澤清造の作品コピーを常に作業ズボンの尻ポケットに忍ばせた、確たる将来の目標もない、相も変わらずの人足であった」
なのだった。
この一文でこの小説は終わっているけれど、
何とももの悲しい。
コンプレックスとの戦い、それが人生。
しかし貫多、清々しいほど口が悪いな。